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Selfishly

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SRT Pa4「特別講師」


スローライフt(third)




             P4「特別講師」
H19,10/11 14:45


 
「エド~、このノートもいるか?」

空き講義室にたむろって居ると、テオが顔を覗かせて声をかけてくる。

「よぉ。 どれ?」

すでにエドワードの机の前には、周囲のメンバーが持ち寄ったノートが
山のように積まれている。

ノートをかざしながら、近づいてくるテオに周囲のものも
明るく声を掛け合い、場所を空けてくれる。

「これ、武器の性能と構造高等編」

「あっ、いるいる。 助かるよ。 それ、受講してる奴少ないからな」

エドワードが編入した最高学年の3回生は、本人達の適正や希望によって
選択の授業が中心だ。 教科書は、望めば全て支給されるが、さすがに
講義のノートは、自分で取らなくてはならない。
すでに終わっている講義のノートは、受けた者からしか集められないから、
エドワードやテオと仲良くなった者達が、方々に声をかけて
集めてくれてるのだ。

「でも、エドは偉いよな~、俺なんか、最低必修だけでヒィーヒィー言ってんのに
 全講義のノートと補修受けんだろ?」

集まっている中で、1番身体の大きな者が、感心したように
エドワードの手元に集められているノートを見て、顔を顰めている。

「仕方ないさ、俺、何の授業も受けてないんだからさ。
 取りあえず集めて、受けさせてもらえるものは、受けさせてもらわないと」

「ふぅ~ん? それって、免除とかしてもらえないんか?」

別の方向からかかった声に、まさかと笑いながら、首を振る。

「そんなに甘いとこじゃないだろ、ここは」

「まぁ、そうだな。 知らなくて、危ない目にあうのは、自分だからな」

「その通り」

皆も、真剣な顔で頷いている。

エドワードは、その周囲の反応を眺めて、
『やっぱ、ここら辺は、普通の学校とは反応違うよな』と
頭の中で、納得している。

士官学校は、年齢もある程度上限はあるが、入っている者にはバラつきがある。
ここは、純粋に学問をする場ではなく、専門の職業学校のようなものだ。
特に、卒業後、危険な職に付かなくてはならないのだから、
学ぶほうも必死に付いていこうとする。

エドワードが士官学校で生活するようになって、3日ほど過ぎた。
殺伐とした雰囲気を想像していたが、予想とは違って、皆親切で、
学校も、それなりに自由な風紀が漂っている。
学校曰く、『何をしてもいいが、責任は自分で取れる範囲にしろ』の
暗黙の決まりがあり、それさえ守れれば、結構自由を利かせてくれるらしい。

エドワードも最初は、珍獣のような目で見られたりもしたが、
彼の独特の雰囲気も、気配も、この中では良い意味で突出するが、
悪い意味では浮き上がらないでいる。

「なぁ、2日後の特別授業の話聞いたか?」

「聞いてる、聞いてる」

「しかし何でまた、全校生徒が参加しなくちゃいけないんだ?」

周囲の話に思い当たりのつかないエドワードが、怪訝そうに皆を見ると、

「エドはまだ聞いてないかな? ここ数日、学校側がバタバタと慌しかっただろ?
 何か、特別講師を招くらしいんだけど、本来その授業は2回生が受けるものなんだ。
 でも、今回に限って、初回は全員参加の強制になったらしくて、
 皆も、自分の授業の調整しなくちゃいけないから、予定が詰まってるんだ」

「へぇー」

良くはわからなかったが、小首を傾げながら、相槌だけは打つ。
入ったばかりでは、普段と違うと言われても、余りピンとはこない。
司令部に比べれば、はるかに落ち着いているし、躾が行き届いているから、
ここは、こんなものだと思ってもいた。
そして、そんなエドワードを、周囲のものは、目尻を細めて
嬉しそうに見つめている。

エドワードが嫌がるから、余り気にかけないような素振りはしているが、
正直、彼が登場したときの皆の驚きと、喜びは大きかった。
噂に高い国家錬金術師様が編入するとなって、興味津々な者や
特別対応に眉を顰める者。 全くの無関心を装う者。
それぞれだったが、食堂に入って来たエドワードの姿に、
まずは驚かされ、次に目を離せなくなった。
余り街でも見ないような、極上の美人が、ふらりと入って来たのだ。
皆が色めきたつのも、当然だ。
が、次いで挨拶をするエドワードが、見かけとは違って、
かなり漢らしいのにも、度肝を抜かれたのだ。

「妙な時に入って来て、迷惑かけると思う。
 でも、俺も真剣に皆に付いていくつもりなんで、
 宜しく頼むな!」

朗々と響き渡る声で挨拶をし、怯む様子もない。
ビシッと頭を下げた後、満面の笑顔で皆を見回したとき、
自然と拍手が起こり、歓迎の意思が響き渡った。
そしてその後、豪快な食べっぷりに、さらに皆が驚いたのは
言うまでも無い。






「でも、参ったよ、急な話だろー、俺、今週に補講山ほど詰めてたのに、
 急に2回も特別授業が入って来た日なんて、予定パァー」

苦笑し肩を竦めて話す青年を皆が小突く。

「お前は、溜めすぎなんだよ!
 もうちょっと、真面目に受けといたら、2回くらいの授業の調整
 出来ないわけないだろうが。
 まぁ、あきらめて土曜の特別補講を受けるんだな」

「げっー!」

嫌そうに顔を顰めているのに、皆が大笑いしている。

「で、何の授業なんだ?」

エドワードの問いはもっともだったのだろう、皆も、
そう言えばと頭を捻る。

「えっと、体術の実地・理論と錬金術実地だと聞いてますけど」

エドワードと同じくらい小柄な彼は、人受けする性格と容姿のおかげか、
色々な人から可愛がられており、結構な情報通だ。

「「「錬金術~!!」」

皆の驚きとは別の意味で、エドワードも目を瞠る。
ここにも確かに錬金術科はあるが、レベル的には申し訳ないがそう高くない。
なので、エドワードが受講を飛ばしている項目の1つだ。

「何で、そんなんまで俺らが受けるんだよ~!
 俺、錬金術なんて、見た事もやった事もないんだぜ」

「なんだか、結構著名な方を呼んだらしく、初日はそのお披露目かねてだって、
 事務局の人が言ってました」

「んじゃ、俺らは枯れ木の賑わいか?」

うんざりした声に、皆も諦めの嘆息を付く。

「まぁ、何事も経験だぜ。
 それに、そんなに高名なら、俺らが今後下に付く事もあるわけだし」

「・・・そういや、そうだよな。しゃあない、将来の上司候補様に
 ご挨拶するか・・・」

「だな」

皆の結論が出た頃に、次の補講の時間に、慌てて席を立つ。


「よいしゃ」

全ての授業を受け終わり、自室に戻り一息つく。
エドワードが選択して受けて行っている授業は、主に彼には関わりが
薄かったものばかりを選んで、集中的に受けている。
戦闘に関しては、体術は省いて、理論と戦術・戦略。
一般では、法令と条例や軍規。
実地では、武器の取り扱いを中心に、後は必修科目だ。

残りは、持ち前の能力を駆使して、集めた資料やノートを頭に叩き込んでいく。
残された時間は無限ではないのだから、尤も効率の良い学習方法を取らないと、
卒業単位に届かない。
ちなみに、授業科目の選択方法は、ロイが決めてくれた。

先に入浴を済ませると、エドワードは新しく持ち帰ったノートを開けていく。
持ち帰ったものは、その日に目を通し、解らない・疑問点は翌日に
講師や仲間に聞いていく。
静かな部屋に、時計の針が進む音だけが刻まれていく。
が、それさえも集中しているエドワードの耳には、届いていないだろう・・・。




その日は朝から、エドワードでもわかる位、校内があわただしい空気に包まれていた。
特に学校側の教授連が、悲壮な表情だ。
教師達の緊張は、生徒にも伝染し、何やら皆がそわそわしている。

「なぁ・・・、講師の名前って、まだ発表されてないのか?」

あちらこちらで、こそこそと耳打ちされているが、
皆同様に首を捻っている。

「何か、急遽ドタキャンの恐れもあるってんで、
 正式に発表は控えるよう通達がきてんだってさ」

「ドタキャン・・・、そんな事出来んのか?」

学校とは言え、軍の中に組み込まれて、その中でももっとも規律の厳しい場所だ、
いくら多忙な人材とは言えども、そんな勝手が通るのだろうか・・・。

「さぁ? また、お偉いさんの勝手気ままな奴が来るんじゃないか?」

何度か、講演と称して、高官がやってくる事もあったので、
まぁ、それの一環だろうと、生徒たちには、面倒な行事の1つのように
受け止められている。

「そこっ! 今何を話していた」

生徒の中から、厳しい叱責の声が上がると、周囲がシンと静まり返る。

「ちっ、また煩い奴が出てきたぜ」

ツカツカと歩いてくる姿勢は、さすが軍人の学校らしく、
なかなか、様になっている。

驚くエドワードの横で、テオが慌てたように立ち上がる。

「何を話していたと言ってるんだ」

上がる誰何の声に、周囲がヒヤリと首を竦める。

「誰だ、あれ?」

エドワードが、傍にいる一人に、耳打ちして問いかける。

「ギルベルト・バックハウス・・・、バックハウス中将のお孫さんです。
 風紀長をしてるんですが、実はここだけの話、寮長をテオさんに取られて
 妬んでるんですよ」

この学校では、風紀長は学校側が推薦する人材がなるが、
寮長は、生徒からの選抜だ。
テオは一般市井の出ではあるが、人望や人徳もあり、成績も優秀な為、
皆の推薦で寮長になった。
どこにでも、それを妬む者が居るという事だ。


「ギル、何もそんなに目くじらたてる事でもないだろ?
 誰でも、興味があって当たり前なんだ」

テオが近寄りながら、仲裁に入る。

「お前が甘いから、乱れるんだ。
 軍の方々への言葉は、不敬に問われる事もあるのは当然だろう。
 無用な憶測や、噂話なぞ、慎んで当たり前の事だ。
 それを誹謗紛いの言葉を口にするなぞ、厳罰ものだ」

「彼らは、そこまでの事を言ったわけじゃない。
 厳しすぎる締め付けは、東方学校では禁止されているのは
 知っているだろう」

堂々と反論しているテオの姿勢は、エドワードの目から見ても
頼りになる男のものだ。
普段は、人のよさばかりが目立つが、締めるところは締めているようなのに
なかなかだと、感心する。

険悪に盛り上がりつつある室内で、さて、どうしたものかと
思考を巡らせ、ふと目をやった先に・・・、

ガタン!!

椅子を蹴倒す程の勢いで立ち上がったエドワードの様子に、
周囲が、呆気に取られて、思わず視線を集める。

「アイツ・・・、また」

小さく何かを呟いているエドワードが、怖いほどの目線で、
窓の外を睨む勢いで見続けている。

「エド?   えっ・・・ええ~!!」

エドワードに声をかけて、同じように視線を向けると、
どうやら、特別講師が着いたらしい。
学校長までもが、恭しく出迎えて、一体どんな人物が降りてくるのかと思えば・・・。


「ロイ・マスタング少将!?」

その叫び声に、周囲の者も、我先にと真相を確かめに

窓側に集まっては、押し合っている。

「ええっ! 何で、東方司令官が??」

「誰か連れてきたんじゃないのか?」

「えー? 嫌、後は護衛みたいなのが一人だけど・・・」

「そういや、国家錬金術師の第一人者だよな・・・」

「マジ~! 特別講師って、司令官直々に?」

いやがうえにも、興奮の坩堝の様な状態に盛り上がる士官生達は、
憧れの眼差しを送り、窓から敬礼をして行く。

階下では、校長が筆頭に、教授連達も、生徒に静まるようにと
叱責を飛ばしているが、生徒たちからしてみれば、
憧れの人物が近くに現れたのだ、興奮しないわけがない。

少将は、慌てている学校側に、何か声を掛けているのか、
校長が、渋々ながらも頷き、沈黙する。

そして、鈴なりに並んでいる生徒に向かって、
颯爽と敬礼を返すマスタング少将の行動に、
一掃賑やかな、歓呼の声が上がる。


皆が盛り上がる群集の中、自分にヒタと視線を合わせて、
悪戯な笑みを浮かべてくる相手に、エドワードは深く嘆息をつく。

「全く・・・派手な登場してきて・・・」


半年だけの士官学校生活も、余り平穏では終わらなさそうだと
深くため息を吐き出す。








1回目の授業は当然教室で納まるわけがなく、全員が講堂へと集められた。
本日の前半の授業は、体術理論の実践での応用の講義で、昼からが
錬金術の実地訓練と振り分けられている。

ぞろぞろと付き従いたそうにしていた学校側の者を引き離し、
受講するなら、講堂の後ろにどうぞと言われ、すごすごと
引き下がるしかなかったのか、生徒の1番後ろに席を作る。


「今回から、短い期間ではあるが、皆の講師を勤めさせて頂く事になった。
 紹介等は、授業には不要なので省かせてもらい、
 早速、今日の授業内容を説明する」

いきなりの授業の開始に、あたふたとメモを広げる生徒の行動で、
室内に紙ずれの音が響き渡る。
箇条書きに授業の内容を書き出すロイの態度も、憎らしいくらい堂に入っている。
教師の経験は勿論ないが、部下に指示を出しなれている彼にとっては、
然程、変わりはないのだろう。

1つ1つに説明をし、最後に要約をまとめて話す講義は、
聞いていて大変に解りやすい。しかも、実例つきで話が進められるので、
確かに、貴重な参考になるだろう。
質疑応答の時間も踏まえた2時間の授業は、あっと言う間に終わり、
皆が、かなり満足して、講堂を出たのは見ていればわかる。

「さすがに、マスタング少将だよな。
 司令官としても、1個人としても凄いのは知ってたけど、
 教師としても、最高じゃないか?」

「俺も、あんな授業なら、次からも受けたいぜ」

口々に褒め言葉を上げて話す学生の中で、思わずこそばゆくなるのは、
エドワードにとっては、仕方が無いだろう。

「エルリック」

自分への呼びかけに、振り向くと、顔を知っている教授が、
付いてくるよう仕草で示す。

「はい?」

仲間に、先に食堂に行っておいてもらえるように伝え、
教授の後を付いていく。
てっきり学校内に戻るのだと思っていると、道は寮の方へと進んでいる。

「教授?」

エドワードの疑問の問いかけにも、口に指を立てて静かにと示してくるので、
黙って付いていくしかない。

寮の前に来ると、やっとの事で教授が振り返る。

「君の部屋に行きなさい。
 少将が、お待ちだ」

「ロ・・・、マスタング少将が!」

「ああ、君の後見人として、学校での生活ぶりを知りたいとおっしゃってね。
 ・・・頼むよ、くれぐれも粗相などないように」

念を押しながら、くれぐれもと何度も言ってくる相手に、
神妙な表情を作って、勿論ですと答えて返しておく。
その言葉にホッとしたのか、次の授業までに戻ってきてくれればいいからと、
伝えるだけ伝えると、さっさと軽い足取りで戻っていった。
彼にとって、この学院始まっての大任だったのだろう。


不機嫌そのものの足取りで、自室に向かって歩いて行く。
そのまま、ノックもせずに開けてやろうかと思ったが、
さすがにそれは思いとどまった。
ここは、家ではないのだ。

コンコン

「エドワード・エルリックです」

「入れ」

形式上の通りの受け答えがあり、エドワードは嘆息をつかないように
気をつけながら、扉を開く。

「っ!!」

入った途端、引っ張り込まれ、唇を塞がれれば、
いくら用心していたとはいえ、驚くものだ。

熱心に触れ合わされる唇が熱を伝えようとするのに、
頑なに唇と開かないエドワードの態度に、不満そうに鼻が鳴らされ、
頤を強引に掴まれて、開かされる。

「ちょ・・・っ・・!」

執拗な口付けに、エドワードが抵抗するように背中を叩くが、
相手は、全く動じもせずに、抱きしめる力を強くする。
完全に抱え込まれると、どうしても体格差で押さえ込まれてしまう。
これに対抗するには、それなりの実力行使が必要で、
さすがに、相手に青痣を作るのは拙いかと、仕方なく身体の力を抜く。

エドワードからの抵抗が無くなったのを、嬉しそうに、
では遠慮なくとばかりに、口付けを深くしては、相手に答えるように絡んでくる。

そして、一向に終える素振りを見せない相手を止めたのは、
やはり、実力行使に出たエドワードの拳骨だった。

ゴツンと、結構な力が入っている事を知らせる音は、
頭を抱えて蹲る相手の様子でも、良くわかる。

「何をする気だ、あんたは。 全く・・・、時と場所を考えろよ」

口付け位は仕方ないと許すと、不埒な手が、あちらこちらと彷徨うようになり、
さすがのエドワードも、忍耐が切れた。

「痛いじゃないか、エドワード・・・、時間なら貰ってるだろ?」

恨みがましく見上げてくる相手に、エドワードはしかめっ面を緩めない。

「そんな為に時間貰ったんじゃないだろ!
 大体、何であんたが講師なんか、やってるんだよ!
 そんなに暇な職場じゃないだろうが」

エドワードの怒りぶりに、続きは断念するしかなくなったロイは、
未練がましくエドワードを見上げるが、仕方ないと嘆息して、
立ち上がり、部屋の中を見回す。

「いい部屋だな」

「そうだな、もともと宿直用だったらしいから」

落ち着いたか、諦めたか、取りあえず、普通の会話が出来そうになったので、
ホッとしながら、1つしかない椅子を薦め、自分はお茶の準備をする。

「良かったよ、君が一人部屋で」

「まぁ、同室に人間に気を使わないで済むのは、楽だけどな」

「浴室も付いてるのが、安心だ」

本当に安心したのだろう、ホッとしたように息を吐き出している相手に
エドワードは苦笑を浮かべる。

「あんたが心配するような事なんて、早々ないから」

エドワードが手渡してくれたカップを受け取りながら、
もう片方で、相手の腰を引き寄せる。

「あっぶない・・だろうが」

カップの中身を気にしながら、咎めるように声を強くする。

「心配はいつでもしてるさ。 信用とは関係なく、
 勝手に湧き上がるんだから・・・」

そう呟きながら、エドワードの胸に顔をうずめる。

「ん・・・ごめんな」

「いいさ、慣れてる」

苦笑している気配が、密着している部分から伝わってくる。
相手の優しさに礼を返すように、擦り付けられている髪を梳く。

ずっと、彼には心配ばかりかけてきた。
旅ばかりの頃から、どれだけ叱られても、懲りずに行動してきた自分は、
彼の中に悩みの種を撒いてたんだろうと思う。
だから、今のロイの中には、心配性の花が咲いてしまってるのだろう。
そうさせたのが自分だと思うと、申し訳ないし、済まないと反省もする。
・・・そして、ちょっぴり嬉しいと思う気持ちも。
だから、相手の我侭に、甘くなるところが、自分の駄目なところなのだが。

しばらく髪を梳かれて、気持ち良さそうにしていたロイが、
強請るように顔を上げてくる。

「どうだった、私の講師姿は?」

こういう表情を浮かべての問いかけに、良い返事を返してはいけないのは、
長い付き合い上わかっている、わかっているのだが・・・。

「・・・いいんじゃない」

素っ気無い言葉にも、めげない相手は、更に追及してくる。

「格好良かっただろ?」

問いかけではなく、確認だ。
ここで否定すると、後が煩いし、長引く恐れがある。
それに・・・、本当に、ちょっと格好いいと思って、見ていたのも本当だったから、
ポロリとこぼれてしまった。

「うん・・・良かった」

言った言葉に気づくと、思わず顔に熱が上がってくる。
背けようとしても、腰をがっちりと掴まれて、下から見上げられれば
赤くしている顔など、バレバレだろう。

クスクスと嬉しそうな声が、下から響いてくる。
それが癪に障って、口をへの字にして見せる。

「エドワード、ご褒美はくれないのかい?」

そう言いながら、したたかな笑みを浮かべる相手は、
貰うまでは、身体を離す気など、もとからないだろう。

渋々と、相手の肩に手を付き、少しだけ身体をあけると、
屈んで、小さくキスを落としてやる。

「頑張れよ」と。

そうして、さっさと腕から抜け出すと、
少々不満そうな表情は浮かべるが、満足したのか、
「頑張るさ」と答えて立ち上がる。

「さぁ、食事の行こうか?
 ここの食堂に用意してくれている筈だ」

そう言いながら、エドワードの背を押して促すようにして
歩き出す。

「・・・あんた、権力行使しすぎ」

「別にこれ位いいだろ? その為の階級だ」

「まぁ、あんたへの報奨にしては、安すぎるよな・・・」

司令官を講師にして、多少の優遇では割りに合わないだろう。

「ん? 講師料は別だ」

その言葉に、意外そうな目を向ける。
余り報酬に固執する方ではなかったのだが、

「講師料は、1回の授業に1度の、君との休憩時間だ」

「なっ!?」

「ああ、勿論、君の立場もわかっているから、
 授業に遅れている君の補講の為と言ってあるよ」

唖然として言葉も無いエドワードに、してやったりと笑みを返す。
やられたらやり返す。 恋人同士であっても、借りはきちんと清算する。

その後の昼からの錬金術の実戦授業では、
マスタング少将と、エドワードの、鬼気迫る白熱戦が繰り広げられ、
士官生達の志気を盛り上げるのに、大いに役立ったそうだった。
勝敗は、1回の口付けが2回に増やされた、賭けの結果で終わりをつげた。




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